論文の書き方や例文・文例・書式や言葉の意... | 文章や手紙などの書き方　書き方ラボ

一般に、論文は学術雑誌に提出されます。雑誌に掲載されるか否かの審査の有無で２種類に分けられます。その書き方に大きな違いはありませんが、審査付きの論文のほうが業績としてカウントされやすく、学者や企業の研究者の評価につながります。理系では英語で書かれる国際誌の評価が高い傾向にあります。例えば「インパクトファクター」は審査付き学術論文の引用頻度に基づく評価基準のひとつです。この数値が大きいと専門家による評価の高い雑誌といえます。論文は、研究機関での採用や昇格、受賞、助成金や補助金の申請などに利用されます。

論文の書き出しは、まずその題名を記すことから始まります。題名はその内容を端的に示したもので、言い切りの形です。それに続いて、著者名・所属・住所・（独自の略号）・要旨が続きます。こうした内容の表記法は学術雑誌ごとに取り決めがあり、最近は標準的な方法に集約されつつあります。要旨には、この論文に至るまでの経緯、現状と課題を書きます。途中の部分に関してはここでは省略します。結びには結論・まとめ・謝辞・引用文献リストをつけます。論文の途中部分も含めて、例示して説明していきます。

（題名例１）複素平面上の特異点の性質とスーパーコンピュータによる数え上げシステムの最適化、（著者・所属の例）大西浩二、西田芳江、井上幸三、吉村数理研究所、東京都文京区丸井1丁目３－５、・・・（略号の例）超解析基準点分別法（SABPCM)、改良型ホフマン則（IMTHR)・・・（要旨の例）複素平面上の特異点の解析に、面的走査法とMSABPCMとを比較検討した結果、前者では第二特異点に関して解の発散がみられたが、その特異点に関する直接の証明を回避しうる後者に関しては・・・を解明した。

忙しいときに新聞の見出しに目を向けるように、専門家の多くは日々発表される膨大な数の論文の題名を見て、興味があれば要旨に目を通します。したがって、題名は専門家の目を引くように工夫を凝らさねばなりません。ただし、「優れた」、「興味深い」などの形容詞をつけてはいけません。学術雑誌には投稿規則があり、それらを規定しています。禁止事項を避けつつ、注目されうる魅力的な題名をつけます。例文にあげたように、要旨はここを読めば論文の内容がつかめるように書きます。要旨には文字数（英語なら単語数）に制限のある雑誌が多いです。

糸球体プロテアーゼについて、堀西ら（1）によりの酵素的性質が解析され、さらにそのｃDNAからアミノ酸配列が東田らによって推定され（２）、トリプシン型の構造の特徴をもつことが明らかになっている。さらに、腎臓のマルピーギ管の内壁周辺の細胞内に、糸球体プロテアーゼが局在することをスミスら（3）が明らかにしている。しかし、生体内で糸球体プロテアーゼが標的とする分子は知られておらず、機能の解明が進んでいない。そこで、今回、糸球体プロテアーゼの腎臓内における機能の解明を目的として・・・。

要旨に続き、序論となります。本論にあたる方法、結果、考察などの前に置かれます。読者の理解を助けるために、本論の前におかれます。序論には、なぜこの研究に着手することになったか、その背景と経緯の骨子を述べます。自説に都合のいいことだけ述べるような書き方はできません。客観的な記述に終始して研究対象の全体像が見えるように読者を導きます。上の例の（１）、（２）などは引用文献を表しています。考察を述べたあとに引用文献のリストをつけます。

（材料の例）糸球体プロテアーゼモノクローナル抗体（MＰAt-1）は、関東理化学社製、染色液（Kaq-2V)は矢内科学（株）製、その他の試薬は深沢薬品製の特級を用いた。（方法の例）糸球体プロテアーゼは、成人男性の摘出した腎臓の糸球体周辺組織（10g）を液体窒素下において、ブレンダーで粉砕後、トライトンX100（1％）を含む生理食塩水とホモジナイズし、100,000×gで超遠心分離後、・・・。糖鎖（β鎖）を介した蛍光標識（５）により、組織切片の免疫染色ならびに・・・

試料は、入手経路がはっきりとたどれるように記載します。試薬などは品質（グレード）や、どこの製品かわかるようにします。方法には、この論文で行った実験の手法が再現できるように詳細にわたって記します。学術論文の規定にしたがい、略号を使うことが義務になっている試薬や操作があります。例中の10000×ｇなどがそうです。また、よく知られた手法は、文献の引用で済ませます。

（結果の例）腎臓由来の糸球体プロテアーゼは、腎炎患者の免疫染色の結果、糸球体から、糸球体とボーマン嚢の間隙に浸潤するように観察された。対照として用いた健常者の糸球体では、糸球体プロテアーゼはマルピーギ小体の細胞内に留まっていることが確かめられた。さらに、糸球体部分と、ボーマン嚢の間隙部分の糸球体プロテアーゼ酵素活性を、MSGAFを基質として測定した結果、・・・であり、このことは・・・。

方法に続いて結果です。方法と結果をまとめて記述するように指示される場合もあります。既に行った研究の結果を記すわけですから、方法・結果とも過去形で書きます。結果を書く際には証拠を示します。わかりやすくするために図や表、イラストを使って説明します。投稿予定の学術雑誌で、既に採択されている論文を参照して、その図表の体裁を確認します。図１、図２、表１、・・・など結果を記述する順序にしたがって図表を並べます。

腎臓で炎症反応に応答して細胞内顆粒中に蓄積するにプロテアーゼは、抗糸球体プロテアーゼ抗体と交差反応性があった（図１）ことから、両者の立体構造に類似性があることが推察される。ただし両者の一次構造の類似性は６０％ほどである。細胞内のカルシウム濃度の低下に伴い、両酵素の量が増大する（表１）ことが明らかになった。このことから、腎臓の炎症に伴う種々の炎症反応応答物質がカルシウムを取り込んだのち、組織液を通じてリンパ管から腎臓の外に放出されることが想起される。今後、CRPの値と糸球体プロテアーゼ量との相関を・・・

考察です。実験結果から必要十分な議論を行います。実験事実から客観的に導かれる結論を手短に述べてから、その理由を証拠とともにあげます。あくまでも論理的に破綻しないように注意を払います。文末は、証拠が十分な場合は、「確証が得られた」、「解明した」などを用い、証拠が多くないときは「推察される」、「推定される」などトーンを下げた表現とします。続いて総括を行う場合もあります。このあとに引用文献リスト、謝辞が続きますが、ここでは略します。

序論、方法、結果、そして考察では上に示したように、明らかに内容や書式が異なります。論文のどの項目を書いているのか意識を払いながら書き進めます。繰り返しになりますが、４つの項目のうち、序論、方法、そして結果については、一般に過去形で書きます。いきなり言葉を略号で表すことは、雑誌で取り決めがない限りはできません。必ず最初でことわり書きを入れてから使います。引用文献リストは雑誌により、その表記法に違いがあります。主要な学術雑誌の引用文献表記形式に合わせて変換できるソフトがあります。

論文を書くことは、手紙の書き方と同様に定型の形式があります。書き慣れないうちは定評のある学術雑誌に掲載されている論文の中から手本を探します。その中から、文末表現や決まった言い回しなどを雛形として自分のものにします。あくまでも文末表現や接続詞の使い方をまねるだけで、くれぐれも文の大部分をコピー・ペーストすることのないように注意します。論文を投稿後も審査、掲載が決まり、印刷直前まで、審査員（レフェリー）や出版社とやり取りが続きます。証拠となる物品はそれまで残しておく必要があります。

論文を書くにあたって、書き記したいポイントをリストアップします。すると、論文にするには証拠が弱い部分がわかりますから、その際は証拠を集める作業が必要になります。十分な証拠が得られ、議論に耐えうると納得してから論文を執筆すべきです。下書きした文は、外国語なら内容が理解できるネイティブの人に見てもらうか、校正業者に依頼して手を入れます。日本語の場合も同僚などに見てもらいます。難しい専門用語を駆使した論文が優れているわけではなく、わかりやすくて新規な内容が豊富なものが良い論文です。