台本の書き方や例文・文例・書式や言葉の意... | 文章や手紙などの書き方　書き方ラボ

台本とはシナリオや脚本とも呼ばれ、映画やドラマ、または舞台やテレビ番組等の言わば骨子ともなるものです。ストーリーや進行の展開を順序通り端的な言葉で書き記したものであり、映画であるならシーン毎に台本を設計図と見立てて映像にしてゆくのです。それ故多くの場合、台本自体が単独で作品となる訳ではありません。よって文章に凝る必要はなく、映像を撮る人（監督やディレクター）に的確に内容が伝わることが肝要となります。

特に決まった書き出し方や結び方はありません。原稿用紙を用いる場合、一枚目にタイトルと作者名を記し二枚目以降から台本の本文を書いていきます。後は（映画やドラマなら）物語を完結させ、文末にエンドマークとして〈了〉〈終〉等と書き加えればいいでしょう。その他で別途必要とされるのが人物表です。これは物語に登場する人物の名前を表すものです。主な登場人物はフルネームで、脇役なら苗字のみや職業等（警官・生徒Ａなど）で構いません。

１田舎の駅舎野山に囲まれた長閑な雰囲気の無人駅に、二両編成の電車が到着する。大きなバッグを重そうに抱えて、電車から降りてきたのは島田響子（24歳）。響子「全然、変わってないな」と、景色を見渡して感慨深げに呟く響子。ホームを歩き改札へ。そこには一人の青年・沢村信二（26歳）が迎えている。沢村「帰って来たな」驚いた顔の響子。響子「先輩……どうして？」改札越しに見つめ合う二人。

この例文は、映画の最初のシーンをイメージしたものです。まず最初に『１田舎の駅舎』としたのが、台本では『柱』と呼ばれる部分です。『１』という番号は、それがこの映画の最初のシーンであるということを表しています。人物名「」、で書かれている部分が『セリフ』。それ以外の部分が『ト書き』と呼ばれるものとなります。ト書きは３文字開けて４文字目から書くのが、台本の書式として一般的です。この様に台本とは『柱』『ト書き』『セリフ』の三つの要素で成り立ってゆくものなのです。

〇一年Ｂ組の教室静まった教室。教師が黒板に板書する音がコツコツと響く。一番後ろの席には、机に突っ伏し居眠りをしている翔太の姿。その右隣の席の朱美が、翔太の肩をシャーペンでつつく。朱美「（小声で）ちょっと」翔太「うーん……」朱美「起きなさいよっ」翔太「（突如、飛び起き）もう食えません！」突然の大声に、教室中の視線が翔太に集まる。教師は苦虫を噛み潰したような顔で、教師「一体、何を食べていたのかな？」と、冷ややかな言葉。それに伴いクラスメイトがクスクスと笑いを洩らす。一人呆れた様子で、顔を覆っている朱美。

この例文では柱でシーン数を示さず『〇』としましたが、台本は順に書き記すものなのでこれでも構いません。あとト書きの中で教師と表記してますが、これはあまり重要でない登場人物だからです。その後も物語に関与する人物なら、名前が必要になるでしょう。セリフ内に（）で示した部分がありますが、これは短いト書きをセリフ内に収めたもの。別に新たに行を用いて書いてもいいのですが、セリフが連続する場面ではテンポが良く見え効果的です。

〇本田家の前の道（深夜）静まり返った閑静な住宅街。道の向こうから酒に酔った本田が、千鳥足で歩いてくる。本田「（鼻歌で）フンフフフフーン」ご機嫌な様子の本田が、自宅前に到着。すると突然、玄関のドアが開き飛び出して来た、男と思しき人影が目の前に迫る。本田「うおっ！」本田はドンと突き飛ばされ、道路に尻餅。しかし咄嗟にその足にしがみつくき、本田「だ、誰だっ？」とその顔を見上げるが、暗がりのため顔は見えない。謎の男「……」謎の男（本田の同僚・山本）はじっと本田を見下ろしている。

この例文では柱で（深夜）と時間帯を記しています。すべてのシーンで表す必要はありませんが、このシーンの場合深夜のため、男の顔が判別できないことが必然なのでそれを指定してます。ト書きを読めばわかることですが、書いておいた方が親切でしょう。ここでは謎の男（山本）と正体を明かしていますが、それはあくまで制作側に示したものであり、実際に映画等を観ている観客にはわからないという体を伝えています。

１渋谷・スクランブル交差点信号が青に変わり、一斉に交差点を渡り始める多数の歩行者たち。突然、バイクのエンジン音が轟くと、「きゃあ！」「危ないっ」等と悲鳴が上がっている。バイクの男「どっけー！」疾走するバイクの視線で、人込みをかき分ける様子。「主題歌（曲名）」がかかり「映画のタイトル」。暴走し彼方に走り去るバイクの姿。２渋谷・公園通りサイレンが鳴り、数台のパトカーがバイクの追跡を始める。警官「（スピーカー音）そこのバイク、停まりなさい！」警告を無視して、なおもバイクは暴走を続ける。

ここでは映画の冒頭からの連続するシーンを表しています。例文のように音楽やタイトルが挿入されるタイミングを示すことも可能です。ですが多くの場合は監督の演出に委ねられるので、あくまで参考程度のものとなります。ト書きの中に「きゃあ！」等のセリフが入っています。これは群衆の中で誰が発したかわからない言葉であるためで、そんな時はト書きで入れ込んだ方が端的でわかりやすいでしょう。

〇病室落ち着いた雰囲気の個室。窓際に置かれたベッドでは、松山が静かに寝息を立てている。それを取り囲み、秋子・夏美・春奈の姿。三人とも心配そうな顔をしている。すると秋子は何かを思い出したように、ハンドバッグを開く。中から取り出したのは一通の手紙。春奈「それは？」秋子「先週……お父さんから届いたの」夏美「読んでいい？」コクッと頷き、秋子は夏美に手紙を渡す。夏美「拝啓――」夏美の読む声が、松山のものに変わる。松山のＮ「元気でやってるか？俺の方はまあぼちぼちだ――」三人の脳裏に、幼い日の松山との思い出が蘇る。

夏美が手紙を読む声が、差出人である松山のものに変わっています。このように徐々に声が入れ替わる手法は、ドラマ等でもよく見られますね。これも一例であり、特に倣う必要はありません。『松山のＮ』と記したのは、それがナレーションであることを示し、実際の松山の肉声と区別するためです。基本的に台本では人の心理を表しませんが、このように『Ｎ』であったり『心の声』とすることで、その時に登場人物が考えていることを表すことができるのです。

柱――シーンのタイトルであり、主に場所を端的に印す。必要に応じて（）で時間帯を付け加える。セリフ――登場人物が発した言葉。台本の中では、唯一直接的に作品に反映される重要な要素。ト書き――背景や人物の行動を表す要素。短いものは（）としてセリフの中に入れ込むことも可。ナレーション――登場人物の心の声。または、ストーリーの語り手として主人公等のナレーションが各所で挿入されたりする場合も。

先に示した通り、台本で書き表すことは以下の三点。背景の描写。人物の行動。そして、セリフです。簡単に言えば「何処で誰が何をして、その時何と言ったのか」ということになるでしょう。小説と比べた場合、一番大きく違うのは人の心理に入らない点です。ト書きに於いて「～と思った」などとは書いてはいけません。台本はそれを映像にすることが目的です。ト書きで心理を描写されても、それを映像で撮ることは叶いません。どうしても必要な時はナレーションで表しますが、基本的にはそれも控えた方がより台本らしい表現となります。

柱・セリフ・ト書きの三つの要素さえ押さえれば、台本は割と書き始めやすい表現手段です。巧妙な文章力も必要ありません。わかりやすく伝えることが何より大事です。ただセリフには全力を注ぎましょう。実際にその役を演じる役者さんは、書かれたセリフを元に演じます。できるだけ印象的で感動的なセリフを、と心がけるべきなのです。後は雛形にこだわらずに自由でいいと思います。書き進めれば「こんな場合どうしたら？」と悩むかもしれません。そんな時は。自分なりに工夫してみましょう。意図が伝われば、それで良いのです。